音楽表記の中にある脚注

音楽内の脚注の概要

音楽表記の中にある脚注は 2 つのカテゴリーに分けられます:

イベントに紐づく脚注

これは、単一の音符、アーティキュレーション (指番号、アクセント、強弱記号など)、音符の後に付加するイベント (スラーや手動の連桁など) といった特定のイベントに付加されます。イベントに紐づく脚注の一般的な形は以下のようなものです:

[direction] \footnote [mark] offset footnote music
時間に紐づく脚注

これは、音楽コンテキスト内の時間の一点に関連付けられます。\time\clef といったいくつかのコマンドは、拍子記号や音部記号を作り出すのにイベントを使いません。和音もそれ自体ではイベントを作りません: その和音の符幹や符尾が、 タイム ステップの最後に (名目上は中にある音符のどれかを通して) 作られます。和音の中のどの音符が符幹や符尾の生成元として見なされるのかは、正確に定義されていません。そのため、符幹や符尾に脚注を付加する場合にも、こちらのタイプを用いると良いでしょう。

時間に基づく脚注は、イベントを参照せずに、このようなレイアウト オブジェクトに注釈を入れることができます。この脚注の一般的な形は以下のようなものです:

\footnote [mark] offset footnote [Context].GrobName

2 つの形にあるそれぞれの要素は以下のような意味を持ちます:

direction

\footnote が音符の後に付加するイベントやアーティキュレンションに適用される場合に限り、方向指示子 (-, _, ^) を前に付けて、music が (脚注マークと共に) その前にある音符や休符に付加されるようにしなければなりません。

mark

これは参照ポイントとページの下の脚注自体の両方に使われる、脚注マークを指定するマークアップや文字列です。これは省略することができ (これは \default に置き換えるのと同じです)、その時は自動的に連番が振られます。この連番は脚注が含まれるページごとにリセットされます。

offset

これは ‘#(2 . 1)’ のような数のペアで、マークを配置する場所の X, Y オフセットを、オブジェクトの境界からの譜スペース単位で指定します。正の値の場合は右/上からのオフセットとして、負の値の場合は左/下からのオフセットとして解釈されます。0 は境界に中央揃えされることを意味します。

Context

これは脚注の付加されるグラフィカル オブジェクトが作られるコンテキストを指定します。グラフィカル オブジェクトが Voice のような下位のコンテキストに属している場合は省略することができます。

GrobName

これは (‘Flag’ のように) 脚注の付加されるグラフィカル オブジェクトを指定します。これが指定された場合、脚注はある特定の音楽表記に付加されることはなく、その音楽タイミングで生成される、指定したグラフィカル オブジェクト全てに付加されます。

footnote

ページの下で用いる脚注テキストを指定するマークアップや文字列です。

music

脚注が付加される、音楽イベントや音符の後に付加するイベント、アーティキュレーションです。

イベントに紐づく脚注

以下の構文で、music によるイベントから生成されるレイアウト オブジェクトに脚注を加えることができます:

\footnote [mark] offset footnote music
\book {
  \header { tagline = ##f }
  \relative c'' {
    \footnote #'(-1 . 3) "A note" a4
    a4
    \footnote #'(2 . 2) "A rest" r4
    a4
  }
}

[image of music]

和音全体にイベントに紐づく脚注を付け加えることはできません。和音は、例え 1 つの音符しか持っていなかったとしても、それ自身ではイベントを作り出さないからです。しかし、和音のにある個別の音符には脚注を付け加えることができます:

\book {
  \header { tagline = ##f }
  \relative c'' {
    \footnote #'(2 . 3) "Does not work" <a-3>2 % これは動作しません
    <\footnote #'(-2 . -3) "Does work" a-3>4 % これは動作します
    <a-3 \footnote #'(3 . 1/2) "Also works" c-5>4 % これも動作します
  }
}

[image of music]

脚注が音符の後に付加するイベントやアーティキュレンションに付加される場合、\footnote コマンドの前に必ず方向指示子 (-, _, ^) を付けて、後にイベントやアーティキュレーションを続けなければなりません。この形では、\footnote の部分が、最後の引数 music に脚注マークが付加されたもののコピーとして解釈することができます。構文は以下です:

direction \footnote [mark] offset footnote music
\book {
  \header { tagline = ##f }
  \relative {
    a'4_\footnote #'(0 . -1) "A slur forced down" (
    b8^\footnote #'(1 . 0.5) "A manual beam forced up" [
    b8 ]
    c4 )
    c-\footnote #'(1 . 1) "Tenuto" --
  }
}

[image of music]

時間に紐づく脚注

脚注が付加されるレイアウト オブジェクトがイベントから間接的に生成されるものである場合 (AccidentalStem など) には、そのレイアウト オブジェクトの GrobName が脚注テキストの後に、music の代わりに必要です:

\book {
  \header { tagline = ##f }
  \relative c'' {
    \footnote #'(-1 . -3) "A flat" Accidental
    aes4 c
    \footnote #'(-1 . 0.5) "Another flat" Accidental
    ees
    \footnote #'(1 . -2) "A stem" Stem
    aes
  }
}

[image of music]

しかし、GrobName が指定された場合、脚注が現在のタイム ステップにある全てのグラフィカル オブジェクトに付加されることに注意してください:

\book {
  \header { tagline = ##f }
  \relative c' {
    \footnote #'(-1 . 3) "A flat" Accidental
    <ees ges bes>4
    \footnote #'(2 . 0.5) "Articulation" Script
    c'->-.
  }
}

[image of music]

和音内の各音符にはそれぞれ (イベントに紐づく) 脚注を加えることができます。‘NoteHead’ のみが音符から直接生成されるグラフィカル オブジェクトです。そのため、イベントに紐づく脚注は、和音内の ‘NoteHead’ に脚注を加える時にのみ有効です。和音における他のグラフィカル オブジェクトは間接的に生成されるものです。\footnote コマンド自体は、グラフィカル オブジェクトの種類と、どの特定のイベントに付加するかを両方指定できるような構文がありません。しかし、グラフィカル オブジェクトの種類を指定するために時間に紐づく脚注を使用し、それを \single で前置することで次に来るイベントのみに適用させることができます。

\book {
  \header { tagline = ##f }
  \relative c'' {
    < \footnote #'(1 . -2) "An A" a
      \single \footnote #'(-1 . -1) "A sharp" Accidental
      cis
      \single \footnote #'(0.5 . 0.5) "A flat" Accidental
      ees fis
    >2
  }
}

[image of music]

Note: 脚注が上の例のように、同じ音楽タイミングにあるいくつかの要素に付加する場合、脚注の番号は入力ファイルでの順番ではなく、上に表示されるものから順番に割り振られます。

音部記号や転調を示す調号のようなレイアウト オブジェクトは、基本的には実際のイベントから作られるわけではなく、プロパティが変化した結果として生成されるものです。また、小節線や小節番号は、タイミングに基づいて生成されるものです。そのため、このようなオブジェクトに脚注を付ける場合には、それが生成される音楽的タイミングに紐付ける必要があります。時間に紐づく脚注は、和音にある符幹や連桁に脚注を付加する場合にも有効です。このようなオブジェクトは名目上、和音内のどれか 1 つのイベントに割り当てられて生成されます。特定の音符に脚注を紐付けることは軽率でしょう。

脚注を付ける対象となるレイアウト オブジェクトは、時間に紐づく脚注の場合には常に明示する必要があります。また、グラフィカル オブジェクトが下位 (訳注: Voice など) ではないコンテキストで生成される場合には、正しいコンテキストを指定する必要があります。

\book {
  \header { tagline = ##f }
  \relative c'' {
    r1 |
    \footnote #'(-0.5 . -1) "Meter change" Staff.TimeSignature
    \time 3/4
    \footnote #'(1 . -1) "Chord stem" Stem
    <c e g>4 q q
    \footnote #'(-0.5 . 1) "Bar line" Staff.BarLine
    q q
    \footnote #'(0.5 . -1) "Key change" Staff.KeySignature
    \key c \minor
    q
  }
}

[image of music]

数字の代わりに独自の脚注マークを使うことができ、マークされるオブジェクトと、脚注マークを繋げる線の表示を抑制することができます:

\book {
  \header { tagline = ##f }
  \relative c' {
    \footnote "*" #'(0.5 . -2) \markup { \italic "* The first note" } a'4
    b8
    \footnote \markup { \super "$" } #'(0.5 . 1)
      \markup { \super "$" \italic " The second note" } e
    c4
    \once \override Score.Footnote.annotation-line = ##f
    b-\footnote \markup \tiny "+" #'(0.1 . 0.1)
      \markup { \super "+" \italic " Editorial" } \p
  }
}

[image of music]

脚注マークのカスタマイズについての更なる例は、独立したテキストの中にある脚注 にあります。


LilyPond 記譜法リファレンス v2.25.15 (開発版).